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ドナルド・ノーマン「誰のためのデザイン」の意味を知るのに22年もかかってしまったお話

ーープロローグ
この本を始めて読んだのは発刊後間もなくの1990年、私がグラフィックデザイナーとして世の中に出てきた頃です。
STUDIO VOICEか何かで記事を見て読んでみました。

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当時は広告や書籍のレイアウトや装丁、ビジュアル周りの作成を手掛けておりました。
そしてこの頃自分の中のデザインとは見た目を重要視し、時代的に豪華な広告が溢れていたこともあり、認知学的なことは基より、使われることを意識した話やアフォーダンスといったものがあまり理解できずにいました。

そしてそれから長い年月が流れ、まさか自分に大きく関わってくることとは思いもよらなかったことと、この本に書かれていることが22年経っても色褪せることのない内容だと気づき真剣に読み返すこととなったのです。

ーーちょっと遠回りの本章
商業デザイナー…この呼び方は良くないかもしれませんが90年台初頭の特にアドバタイジング、エディトリアル系のデザイナーは「訴求第一」だったように思います。
どう強く訴えるのか、どれだけ情報を詰め込むのか、もしくは言葉や文字を最小に「絵」としてどう見せるのか、そんなことに拘っていたように思います。
そしてあの頃は経済状況も非常によく、俗に言うバブル時代ということもありハイエンドなデザイナーは海外ロケや海外の有名人を起用するなど広告制作に数億単位の予算をとったりするのも珍しくありませんでした。

そのハイエンドなデザイナーの下に続く、伸び盛りだった私達のような駆け出しのデザイナーも比較的潤沢なコストを掛けることが出来たこともあり、広告を作るデザイナー、そしてその広告を見るユーザーも懐も心も余裕があって、贅沢な広告を当たり前にのように見ていました。

今思えばある意味、広告の本来のあるべき姿を見失いかけていたのかもしれません。
とは言えそれは悪いことだけではなく、経済的にも精神的にもゆとりのある世の中は日本ならではのサブカルチャーを発展させ、同時に海外のカルチャーやデザインに広く目を向けることを後押しした時代だと思います。
そしてこの頃、サブカルチャーとしての一端としてオンラインの情報交換やコミュニティー形成に使われていたパソコン通信にフォーカスがあたり始めました。
電話回線を利用してモデムで接続し、テキストでコマンドを入力するとモデムから接続音が聞こえ…コミニュケーションはテキストで展開される世界。
なんとなくそのサイバー感が当時デザイン界に名を馳せてきたMachintoshに重なり一部のデザイナー達も接続時間を気にしながら熱狂しました。
そしてでてきたのがTigerMountain、ユーザはレジデンツと呼ばれ音楽界やアート界の著名人が何人も参加しているだけではなく、テキストベースではなくGUIでの操作がとても新鮮で正直感動したのを覚えています。

そして少し遅れて登場したのがアメリカのゴア副大統領が発表したスパーメディアハイウエイ、いわゆるインターネットが一般に公開されました。
それまで日本では限られた機関や学校、一部企業がIP接続と読んで高額な維持費を払いながら使っていたネットワークサービスが一般の人たちに開放されたのです。
この頃はホームページと呼ばれひたすら長いページにアンカーリンクが貼られたもので、デザイン性も弱く、制作時もいきなりマークアップしてゆくのが主流でした。
当然のようにホームページデザイナーなる職種が生まれました。
とは言え、ホームページのあり方もただただ情報の羅列が多く、どちらかと言えば情報の垂れ流しであったり訴求重視であったと言えます。
今思えばこの時すでにホームページ作成も「誰のためのデザイン」の第一章で書かれていた『人間中心デザイン』は意識するべきだったのですが当時は全く気づきませんでした。

そしてホームページもコンテンツ単位でリンクされるページが増えWebサイトと呼ばれるようになり、作成のフローも初期の頃より複雑化してきました。
私が「誰のためのデザイン」の理解が遅れたもう一つの理由が、この時期はしばらく業務系システムの画面設計や開発管理を担当していたこともあります。
Webをインフラとしたサービス、そのサービスのユーザー接点となるサイトとページの設計には『人間中心デザイン』が必要…その制作方法の進化の過程にWebとは少し違うところでマンマシーン思想で利用するユーザーに専門性と学習、慣れを強烈に強いるクラサバ業務系アプリの画面設計に汗を流していたのです。

ーーあっさりの終章
そして2012年、デジタルマーケティング系企業に務め始めた時、「UXをベースに…」と言う言葉が毎日のように飛び交っていました。そうか、UXをもう少し知らないことには難しいかな…と勉強し始めた矢先に『人間中心デザイン』と言うキーワードにぶつかりました。
ふと思い、「誰のためのデザイン」を読み返してみたのです。
すると22年前よりも内容がスッと頭に入ってきて納得が行くるし理解が容易いのです。
なるほどねぇと思ったところでハッとさせられる事実に気づきました。
ドナルド・ノーマンはデザイナーではなく心理学者、だから認知学の見地からデザインを語っています。
そして私は肩書がグラフィックデザイナーじゃなくなったらこの本の意味をちゃんと理解できたのです。

日本で発刊されて29年目の本ですが、内容は色褪せることなく、しかも読み方によってはWebの登場やモバイルガジェットの登場も予測していたりします。
2015年には改訂版も出版され非常に息の長い本になり、名著と呼ばれてもおかしくないと思います。

ぜひとも一度は読んでみてください。