2026.02.08 | テクノロジー

映画・テレビ制作にAIを使うAmazonの狙いと現場の考え方

Amazonが映画やテレビ制作にAIを本格的に取り入れようとしています。背景にあるのは流行ではなく、制作費の高騰によって作品を作り続けること自体が難しくなっている現実です。Reutersが報じたAmazon MGM Studioの取り組みをもとに、AIが制作現場でどのような役割を担おうとしているのかを整理します。

AmazonがAIを導入する理由は「表現」ではなく「成立条件」にある

AmazonがAI活用に踏み出した理由は、映像表現を派手に変えるためではありません。制作費の高騰によって映画やドラマの本数を増やしにくくなっているという、業界全体が抱える構造的な課題によるものです。人件費や撮影コスト、ポストプロダクション(撮影後の編集・加工工程)の負担が増え続ける中、1本あたりに必要な予算は年々大きくなっています。
Amazon MGM StudioでAIツール開発を率いるAlbert Cheng氏は、制作コストの高さがリスクを取る判断を難しくしていると語っています。制作が成立しなければ、新しい企画や挑戦的な表現に踏み出す以前の問題になってしまう。この認識が、AmazonのAI導入の出発点です。

ここで注目すべきなのは、AmazonがAIを「人の仕事を置き換える存在」として説明していない点です。AIは制作工程の一部を補助し、工数やコストを抑えることで、作品を世に出す余地を確保するための手段として位置づけられています。創作の中心はあくまで人にあり、AIはその前提条件を整える役割を担う、という距離感が一貫して示されています。
一方で、ハリウッドではAIによる雇用への影響を懸念する声も根強くあります。Reutersでは、Amazonが過去最大規模となる約3万人の人員削減を行い、その中にPrime Video部門が含まれていたことにも触れられています。ただし、これがAI導入の直接的な結果だとは断定されておらず、企業全体の効率化の流れの中で語られています。
こうした背景を踏まえると、AmazonのAI活用は理想論ではなく、制作を続けるための現実的な判断だと言えます。そして、その考え方を具体的な形に落とし込もうとしているのが、次に紹介するAmazon AI Studioです。

Amazon AI Studioが目指すのは「人が使えるAI」

Amazon AI Studioは、映像制作の現場で実際に使われることを前提に立ち上げられました。Albert Cheng氏はこのチームを、Amazon創業者Jeff Bezos氏の「two pizza team(2枚のピザで足りる規模)」の考え方になぞらえて説明しています。少人数体制にすることで、制作現場の要件に即した判断を素早く行えるようにしています。
AI Studioが向き合っているのは、一般向けAIと映画制作の間にある「ラストマイル」の課題です。文章や画像を生成できるAIが存在しても、映画やドラマではカットごとのキャラクターの見た目や動きの一貫性、既存の編集・制作ツールとの連携といった細かな制御が欠かせません。こうした調整ができなければ、現場で継続的に使われることはありません。

AmazonはAmazon Web Servicesを活用し、複数の大規模言語モデル(大量の文章データを学習したAI)を組み合わせる方針を取っています。制作前後の工程に応じて使い分けられる環境を用意することで、現場に無理なく組み込む狙いです。また、AIで生成したコンテンツが他のAIの学習に使われないよう、知的財産を保護する設計も重要な前提とされています。
Reutersでは、アマゾンが3月にクローズドベータ版を開始し、業界パートナーを招いてAIツールのテストを行う予定で、5月には成果を公表できると見込んでいると報じています。ドラマ『House of David』では、第2シーズンの制作において、実写映像とAIを組み合わせた戦闘シーンが用いられました。AIは前面に出る存在ではなく、既存の制作手法を補う形で使われています。

まとめ

いかがだったでしょうか?
AmazonのAI活用は、映像制作のあり方を大きく変えようとするものではありません。制作費や工数という制約の中で、作品を作り続けるための選択です。AIは人の代わりに創作する存在ではなく、人が判断し作る余地を支える道具として位置づけられています。この距離感こそが、今後のAI活用を考える上で重要な視点と言えるでしょう。