2026.04.10 | テクノロジー

Sakana Marlinとは?長時間思考で進化するAIリサーチの実力

企業の意思決定では、情報収集や分析に多くの時間がかかる点が課題になっています。そうした中、Sakana AIが発表した「Sakana Marlin」は、AIが長時間にわたり自律的にリサーチを行う仕組みを提示しました。検索や要約にとどまらず、思考そのものを担うAIとは何か、その実態を整理します。

Sakana Marlinとは何か──“仮想CSO”として設計されたAI

Sakana AIが開発した「Sakana Marlin」は、高度なビジネス調査を自動で進めるAIリサーチアシスタントです。従来のチャット型AIが質問ごとに応答を返す形式だったのに対し、本プロダクトは調査の設計から分析、整理までを一貫して実行する点に特徴があります。
使い方はシンプルで、最初に調査テーマを入力するだけ。その後は人が操作を続ける必要はなく、AIが数時間にわたり自律的にリサーチを進めていきます。最終的には、要点をまとめたスライドと、数十ページ規模のレポートが生成されます。
設計の背景にあるのが「Virtual CSO(Chief Strategy Officer)」という考え方です。CSOは企業の戦略立案を担う役割で、通常は複数人が時間をかけて調査と分析を行います。Sakana Marlinは、この一連のプロセスをAIが担うことを前提に設計されています。

また、同社の「Sakana Chat」が対話を通じた活用体験を目的としていたのに対し、本プロダクトは戦略立案や意思決定といった実務への活用を見据えています。単なる情報取得ではなく、調査そのものを任せられる点が大きな違いです。
では、そのようなリサーチがどのように実現されているのか、仕組みを見ていきます。

長時間“考え続けるAI”を支える仕組み──推論スケーリングとAB-MCTS

Sakana Marlinの中核にあるのが、「推論スケーリング」という考え方です。AIにより長い時間をかけて思考させることで、アウトプットの質を高めるアプローチであり、一度の応答で結論を出すのではなく、段階的に検討を深めていく点に特徴があります。
ただし、時間をかけるだけでは十分ではありません。重要なのは、どの論点を深掘りし、どの仮説を見直すかを適切に判断することです。そこで用いられているのが「AB-MCTS(Adaptive Branching Monte Carlo Tree Search)」という技術です。思考の流れを枝分かれする構造として扱い、有望な方向に計算資源を集中させる仕組みです。

AIは複数の仮説を立て、それぞれを検証しながら探索を進めます。数百から数千回に及ぶ試行の中で、深掘りすべき論点や別の視点への切り替えを判断し続けます。さらに、複数のAIモデルが役割を分担しながら調査を進めることで、分析の偏りも抑えられています。加えて、研究領域で開発されてきた「AIサイエンティスト」の仕組みも応用されています。アイデアの創出から検証、分析、整理までの一連の流れをAIが自律的に進める枠組みであり、これにより調査プロセス全体を完結させる構造が実現されています。
こうした仕組みがあるからこそ、長時間の思考が意味のあるアウトプットにつながります。

リサーチの常識が変わる──意思決定インフラとしての可能性

ビジネスにおける意思決定では、情報収集から分析、整理までに時間がかかる点が大きな課題です。特に近年は、技術動向や市場環境、規制など考慮すべき要素が増え、調査の負担はさらに大きくなっています。その結果、調査に時間をかけるほど情報の鮮度が落ち、判断のタイミングを逃すケースも生まれています。本来、意思決定には「深く考えること」「幅広く検討すること」「素早く動くこと」が求められます。しかし、人間だけでこれらを同時に満たすのは難しく、どこかで妥協が生まれます。情報不足による判断ミスや、重要なシナリオの見落としが発生する背景には、この構造があります。
Sakana Marlinは、こうしたリサーチ工程をAIに任せることで、この制約を緩和することを狙っています。必要な情報を収集し、論点や選択肢を整理した形で提示することで、人は調査ではなく判断そのものに集中できるようになります。

現在はクローズドβテスト段階で、金融機関や事業会社の戦略部門、コンサルティングファームなどを対象に検証が進められています。リサーチの役割そのものがどう変わるのか、その動きは今後の活用次第で見えてきそうです。

まとめ

いかがだったでしょうか?
Sakana Marlinは、リサーチという工程をAIに任せるという新しい選択肢を提示しています。長時間の思考と構造化されたアウトプットによって、調査の進め方に変化が生まれつつあります。まだβ段階ではありますが、実務での活用が進めば意思決定のあり方にも影響が出る可能性があります。今後の動きを踏まえ、自身の業務にどう取り入れるかを考える視点が重要になりそうです。