2026.05.27 | テクノロジー

Fujitsu Takaneで進む自己進化マルチAIエージェント活用とは

Fujitsuが、業務をこなしながら自ら学習を続ける「自己進化マルチAIエージェント技術」を発表しました。制度改定や仕様変更に合わせ、人が毎回AIを調整していた従来の課題に対し、AI自身が成功や失敗を分析し、次の業務へ反映する仕組みです。AIは単なる作業支援から、“経験を積む存在”へ変わり始めています。

AIが「失敗から学べなかった」理由 従来型AIエージェントとの違い

生成AIは高い処理能力を持つ一方で、業務現場では課題もありました。制度改定や法改正、社内ルールの変更が発生するたびに、人がAIの設定を調整し続けなければならなかったためです。
従来のAIエージェントは、与えられた指示をもとに文章生成や検索を行うことは得意でした。しかし、「なぜ失敗したのか」を整理し、その経験を次の業務へ安全に活かすことは難しかったとされています。たとえば検索精度が低かった場合でも、AI自身が原因を分析し、検索条件や判断基準を修正することは容易ではありませんでした。結果として、実運用では専門知識を持つ担当者が、プロンプトの調整や検索ロジックの修正、評価基準の更新を繰り返す必要がありました。業務内容が複雑になるほど、AIの運用負荷も増えていったのです。

Fujitsuが発表した「自己進化マルチAIエージェント技術」は、この課題に対応するために開発されました。特徴は、AIが業務結果や人からのフィードバックをもとに、自ら改善案を作成する点です。ただし、生成した改善内容をそのまま採用するわけではありません。品質や安全性を確認し、有効と判断された内容のみを学習へ反映する仕組みが組み込まれています。また、本技術では複数のAIエージェントが役割分担しながら動作します。マルチAIエージェントとは、1つのAIがすべてを処理するのではなく、調査、評価、改善提案などを別々のAIが担当する仕組みです。人間のチームのように、それぞれ異なる役割を持ちながら業務を進めます。
AIが単に回答を返すだけでなく、業務経験を整理しながら次へ活かす方向へ進み始めている点は、今回の発表の大きな特徴です。実際に、その仕組みは医療や行政など、複雑な業務領域でも検証が進められています。

医療・行政・大規模システムで進む“AIの現場適応”

Fujitsuは、今回開発した技術を業務特化型LLM「Takane」に適用し、製造、医療、金融、行政など複数分野で評価を実施しました。LLMとは、大量の文章を学習して文章生成や要約、検索支援などを行う大規模言語モデルのことです。Fujitsuの発表によると、業務特化前と比較して平均28ポイントの精度向上を確認したと説明されています。
医療分野では、診療記録や検査結果などの非構造データへの適用例が紹介されています。今回の技術では、それらの情報から診断名や病状の進行度、治療方針などを整理し、一定の形式で抽出できるようになったとしています。
さらにFujitsuは、大中規模病院向け電子カルテシステム「HOPE LifeMark-HX」や、地方公共団体向け業務ソリューション「MICJET住民記録」の設計仕様書検索にも本技術を適用しました。

従来、法改正や制度変更が発生した際には、どのシステムへ影響が出るのかを調査するため、制度知識やシステム構造を理解した熟練者による確認作業が必要でした。設計書や仕様書が膨大な場合、関連文書を探し出すだけでも大きな負担になります。今回の技術では、AIエージェントが過去の検索結果や失敗事例、人による修正内容を学習し、検索範囲や関連文書の抽出方法を改善していきます。一見すると関係が薄そうな文書でも、同じ業務領域に関係している場合は候補から外さないなど、熟練者が行う探索の考え方も取り込んでいる点が特徴です。
単に検索速度を高めるだけではなく、業務知識を踏まえた判断へ近づこうとしている点に、今回の技術の特徴があります。そしてFujitsuは、こうした仕組みを実際の企業運用へ広げるため、AIを動かす環境そのものにも取り組みを進めています。

AIは“指示待ちツール”から“現場で育つチーム”へ変わる

今回の発表では、AIの性能向上だけでなく、「どこで動かすのか」という点にも注目が集まっています。Fujitsuは今後、本技術を専有型AIプラットフォーム「Fujitsu Kozuchi Enterprise AI Factory」に組み込み、企業ごとの業務に合わせたAI運用へ展開する予定です。
特徴の1つが、クラウド環境だけでなく、オンプレミスやエッジ環境での利用を視野に入れている点です。オンプレミスとは、自社内のサーバーや設備でシステムを運用する形態を指します。エッジ環境は、工場や医療機関など、実際の現場に近い場所でデータ処理を行う仕組みです。機密情報を扱う企業では、外部クラウドへデータを送れないケースも多く、AIを自社環境内で運用したい需要があります。

Fujitsuは、カーネギーメロン大学のGraham Neubig氏、Tim Dettmers氏との共同研究も進めています。生成AI再構成技術と組み合わせることで、少ないメモリや電力でも自己進化マルチAIエージェントを動作させる研究を行っていると説明しています。
また、発表では「ソブリンAI」という考え方にも触れられています。ソブリンAIとは、国や企業が自ら管理できる環境でAIを運用する考え方です。特に行政、医療、金融などでは、データ管理や法規制への対応が重要になるため、外部サービスへ全面的に依存しない運用が求められています。
さらにFujitsuでは、「OneFujitsuイニシアティブ」のもと、社内のITや業務プロセスの標準化を進めており、本技術と「Takane」を組み合わせたマルチAIエージェント基盤をグローバルに適用していると説明しています。
現時点で、AIが完全に人間の代わりになるわけではありません。ただ、AIが単なるチャットツールではなく、現場で知識を蓄積し、人と一緒に業務を続ける存在へ近づこうとしていることは、今回の発表から読み取れます。

まとめ

いかがだったでしょうか?
Fujitsuが発表した自己進化マルチAIエージェント技術は、AIが業務をこなしながら学習を続ける仕組みとして注目されています。制度変更や現場ごとのルールに対応し続けることで、AIは単なる作業支援ではなく、業務知識を蓄積する存在へ変わり始めています。今後は、人とAIが同じ現場で経験を共有しながら運用される場面も増えていきそうです。