2026.06.28 | テクノロジー

OpenAIが自社チップ「Jalapeño」を発表 推論基盤の設計思想と今後の展開

OpenAIとBroadcomが、LLM推論に特化した自社設計チップ「Jalapeño(ハラペーニョ)」を発表しました。OpenAIはこの取り組みを「フルスタックインフラ戦略の一環」と位置づけており、モデルだけでなく、それを動かすチップまで自社で設計するという姿勢を明確にしています。その狙いと意味を、発表内容に沿って整理します。

OpenAIが初めて自社設計したチップ「Jalapeño」とは

OpenAIとBroadcomは、OpenAI初の自社設計チップ「Jalapeño」を発表しました。正式には「インテリジェンス・プロセッサ」と呼ばれており、LLM推論に特化したアクセラレータ(特定の計算を効率よく行う専用チップ)として設計されています。
開発にはOpenAIとBroadcom、そしてCelesticaの3社が関わっており、Broadcomがチップ実装と高性能ネットワークを、Celesticaがボード・ラック・システムの統合をそれぞれ担当しています。チップ単体の発表ではなく、AIを大規模に動かすための基盤づくりの一環として位置づけられている点が特徴です。OpenAIのハードウェアプログラムを率いるRichard Ho氏は、「フロンティアAIモデルにとって最も重要なカーネル、メモリ移動、ネットワーキング、サービングパターンを中心にアーキテクチャを最適化した」と述べています。

設計の出発点となったのは、OpenAIがChatGPT、Codex、API、そして今後展開するエージェント型プロダクトを日々運用する中で蓄積した知見です。実際のサービスを動かす中で得られた、モデルの挙動・処理の効率化・安定稼働のノウハウが、チップ設計に直接反映されています。
現在、エンジニアリングサンプル(製品化前の試作品)は、GPT-5.3-Codex-Sparkを含む機械学習ワークロードを製造目標の周波数・電力でラボ内で稼働しています。最終的な性能測定はまだ進行中ですが、初期テストではワット当たり性能(同じ電力でどれだけの処理ができるかを示す指標)が現在の最先端を大きく上回る見込みとされており、詳細な技術レポートは今後数か月以内に公開予定です。
モデルの開発と並行してチップ設計まで手がけるOpenAIのアプローチは、AI企業における垂直統合の一例として注目したいところです。
次に、なぜJalapeñoがそれほどの性能を実現できるのか、その設計思想を見ていきます。

なぜJalapeñoは「速くて効率的」なのか——設計思想とフライホイール

Jalapeñoの最大の特徴は、過去のAIワークロード向けに作られた汎用チップを転用したものではなく、現代のLLM推論のために白紙から設計された点にあります。OpenAI自身のモデルだけでなく、業界全体の現在および将来のLLMに対応できる柔軟性を持って設計されており、OpenAIとBroadcomの発表では、今日の主要なAIアクセラレータが持つ処理能力と、特化型推論システムに近い低レイテンシ(応答までの遅延の少なさ)を両立させることが目標とされています。
設計上で重視されているのは、単純な計算速度だけではありません。チップ内部やサーバー間で発生するデータ移動を減らし、計算・メモリ・ネットワークのバランスを最適化することで、理論上の最大性能に近い実効性能を引き出す構造になっています。

この設計思想を支えるのが、OpenAIが「フルスタック戦略」と呼ぶアプローチです。モデルやプロダクトの開発にとどまらず、その下に位置するチップ・メモリ・ネットワーク・処理スケジューリング・デプロイメントシステムまでを一気通貫で設計することで、各層を同じゴールに向けて最適化できます。
そしてこの戦略が生み出すのが、OpenAIとBroadcomの発表内で「フライホイール」と表現されている好循環の仕組みです。より良いインフラがコンピューティング効率を高め、その効率化がより高性能なAIモデルの開発・運用を支えます。優れたモデルはより良いプロダクトになり、プロダクトの改善が利用者数・収益の拡大をもたらし、その収益が次世代インフラへの再投資に回ることで、AIをより高性能で信頼性が高く低コストなものにしていく——Jalapeñoはそういった循環を強化する役割を担うとされています。
フルスタック戦略の成否は、各層の最適化が実際にどこまで連動するかにかかっており、今後公開される技術レポートがその評価の一つの基準になると見られます。
では、このチップがどのように開発され、今後どう展開されていくのかを見ていきます。

9か月での開発完了と、今後の展開計画

Jalapeñoは、初期設計から製造テープアウト(半導体の設計データを製造工程へ渡す最終節目)までをわずか9か月で完了しました。OpenAIとBroadcomの発表では、高性能先端半導体分野におけるASIC(特定用途向けに設計された専用チップ)の開発サイクルとして史上最速と主張されています。ただし、発表内では「我々が考える限り」という留保がついており、OpenAI側の主張であることを念頭に置く必要があります。
この短期間での開発を支えた要素として、OpenAIとBroadcomによるソフトウェアとハードウェアの密な共同開発体制、Broadcomのシリコン実装における専門性、そしてOpenAI自身のモデルを設計・最適化プロセスの一部に活用したことが挙げられています。

AIを動かすためのチップ開発に、AIそのものが用いられたという構図であり、ユーザーに提供されているモデルが将来のインフラ改善にも役立てられています。
今後の展開について、Jalapeñoはこれ一世代で完結するものではありません。2026年末の初期導入を目標に、その後も複数世代にわたって拡張していく計画とされており、BroadcomのCEO兼PresidentであるHock Tan氏は、Microsoftをはじめとするパートナーと連携し、2026年からギガワット規模のデータセンター展開を進めると述べています。
OpenAIとBroadcomの発表が最終的に強調しているのは、Jalapeñoの目的が技術的な達成にとどまらない点です。コスト・速度・信頼性の改善を通じて、ChatGPTの応答速度の向上、Codexがこなせるタスクの拡大、APIの利用コスト低下、需要が高い時間帯でも安定したアクセスの確保といった形で、学生・開発者・中小企業・研究者を含む幅広い人々へのAI提供につなげることが、この取り組みの最終的なゴールとして示されています。
9か月という開発期間の主張の妥当性は今後の検証を待つ必要がありますが、複数世代にわたる展開計画が既に示されている点は、単発の発表にとどまらない長期的な取り組みとして見ることができるでしょう。

まとめ

いかがだったでしょうか?
Jalapeñoの発表が示しているのは、OpenAIが「モデルを作る会社」から「それを動かすインフラまで自社で設計する会社」へと歩みを進めているという事実です。Greg Brockman氏が「世界はコンピューティング主導の経済へ移行している」と述べているように、チップレベルから一気通貫で設計するフルスタック戦略により、ChatGPTやAPIの速度・コスト・安定性の改善が期待されています。最終的な性能の詳細は今後の技術レポートを待つ必要がありますが、Jalapeñoはその基盤となる重要な一歩として位置づけられています。