2026.07.01 | テクノロジー

AIネイティブ化の「4つの壁」、Dellが示す次世代インフラ戦略

「AIは機能ではなく、企業の在り方そのものだ」。Dell Technologies World 2026の基調講演でそう語られたように、AIはビジネスの根幹に組み込まれるフェーズに入っています。変革を進めようとする企業の前には、越えるべき「4つの壁」が立ちはだかっています。Dellはその壁に、どう向き合ったのでしょうか。

AIネイティブ化を阻む「4つの壁」とは

エージェント型AI(自律的に考え、複数のタスクを連続してこなせるAI)の登場で、企業の在り方が根本から問い直されています。これまでの生成AIが業務効率を20〜30%ほど引き上げるものだったのに対し、エージェント型AIを活用した「デジタルワーカー」への移行によって、その生産性は30倍にまで高まると予測されています。Eli Lilly(イーライリリー)やHoneywellのような創業100年以上の企業でさえ、工場単体の自動化にとどまらず、設計から生産・販売に至るバリューチェーン全体をAIを軸に見直し始めているほどです。
しかし、AIを企業全体で本格的に使いこなすためには、大きく4つの壁を越える必要があります。

1つ目は、4つの中でも特に深刻な「トークン経済の壁」です。エージェント型AIは自律的に動き続けるため、トークンの処理量は莫大になります。例えば、1人の開発者が複数のエージェントを24時間稼働させると1日で10億トークンが消費され、パブリッククラウド(インターネット経由でAIを借りるサービス)を使っていると1日あたり3,400ドルのコストが発生します。単価が下がっても処理量の増加がそれを上回るため、コスト管理が重大な課題となっています。
2つ目は「データの壁」で、社内のデータが部門ごとにバラバラに管理されていると、AIがアクセスできず本来の力を発揮できません。
3つ目の「電力・インフラ・コストの壁」は、AIの計算を担う大量のGPU(画像処理や並列計算が得意な処理装置)を動かすための電力や冷却設備の確保が課題です。
そして4つ目の「スケールの壁」は、AIを複数の拠点や環境に展開する際に生じる複雑さを指します。
これらはAIを本格的に活用しようとする企業が共通して直面する課題です。どの壁も単独では解決しにくく、複数の課題が絡み合って重なるケースが多いと考えられます。Dellはこれらの壁を打破するべく、具体的な解決策を提示しました。

AIを動かすインフラの答え

エージェント型AIが広まるにつれ、AIはさまざまな環境に分散して自律的に動くようになります。こうした世界では、ガバナンス(適切な管理体制)やセキュリティを維持しながら全体を統合的に管理する仕組みが不可欠です。Dellが打ち出した解決策の核が「Dell AI Factory」——コンピュート・ネットワーク・ストレージをモジュール化し、シンプルで柔軟な拡張を可能にするアーキテクチャーです。
中でも注目を集めたのが「Dell PowerRack」です。導入や拡張をシンプルにするラック(サーバーを収納する棚)単位のインフラ製品で、組み立てと検証が済んだ状態で出荷されます。AIや高負荷な計算処理のワークロードを、納品から最短6.5時間で稼働させることができます。

高密度GPU環境の冷却には「Dell PowerCool CDU C7000」が対応し、4Uという省スペースで220kWの冷却能力を発揮します。さらに「Integrated Rack Controller(IRC)」は20マイクロリットルという微量の漏水を7秒以内に検知し、3秒以内に自動で保護措置を実行することで、大規模インフラの運用を支えます。
トークン経済の壁への直接的な答えとなるのが「Dell Deskside Agentic AI」です。AIを外部で借りるのではなく自社で”所有”するという発想のもと、手元のワークステーション環境でAIエージェントの構築・テスト・カスタマイズが完結し、必要に応じてAIモDellを自社用に調整することも可能で、クラウドコストを気にすることなく、社外に機密データを出さずにAI開発を進められます。AIを自社環境に持つことは、コスト管理とデータ管理の両面を同時に解決する手段になり得ます。

データを守り、運用を変える――ストレージと自動化の新戦略

既存のIT環境の進化も今回の発表の重要なテーマでした。ハイパーバイザー(仮想化ソフトウェアの一種)をめぐるライセンス環境が大きく変わりつつあるなか、執行役員 インフラストラクチャー・ソリューションズ SE 統括本部長の森山輝彦氏は、将来にわたって変化・成長し続けられるか、余計な制限を生まないかという観点こそが、今後のインフラ投資の判断軸になると述べました。
Dellはこの問いに対し、新世代オールフラッシュストレージ「Dell PowerStore Elite」で応えます。前世代比で帯域幅277%・IOPS(読み書き速度の指標)176%向上を達成し、3Uの筐体に最大40台のドライブを搭載。6対1のデータ削減保証で増え続けるデータを効率よく管理しながら、稼働を止めずにコントローラーだけを最新技術へ交換できる設計で長期的な設備投資を保護します。

「Dell Cyber Detect」はAIがリアルタイムでファイルを検査し、ランサムウェア(データを暗号化して身代金を要求する攻撃)の被害をいち早く検出します。守るべきはシステムではなくデータそのものという考え方が、このソリューションの根底にあります。
「Dell Automation Platform」は、VMware Cloud Foundation・Nutanix・Microsoft Azure Localなど複数の仮想化環境を単一の画面からまとめて管理できるプラットフォームです。特定サービスへの依存を避けながら、事前に動作保証済みの全自動設定テンプレートで複雑なシステムを迅速かつ確実に構築できます。
「Dell Automation Studio」はTerraformやAnsibleといった既存ツールと連携し、独自の自動化ワークフローを構築できます。インフラから運用まで一貫して対応できるこの体制こそが、Dellが描くAIネイティブ企業への具体的な道筋です。複数の仮想化環境を並行運用する企業ほど、管理の一元化による恩恵が大きくなると言えそうです。

まとめ

いかがだったでしょうか?
AIはすでに「使いこなせれば便利なもの」から、「使いこなせなければ遅れをとるもの」へと変わりつつあります。Dellが今回示したのは、単なる製品の発表ではなく、企業がAIを実業務に落とし込みビジネスの成果へとつなげるための、具体的な解答でした。AIを支えるインフラをどう整えるかが、今後のビジネスの優位性を左右すると言えそうです。