2026.07.25 | テクノロジー

ベテランの暗黙知をAIで継承 Qast Cloneとは?

ベテランの知識を引き継ごうとしても、手順だけでは「なぜ、その判断をしたのか」まで残すのは簡単ではありません。any株式会社は、会議や資料、本人へのインタビューから判断基準を抽出し、AIに反映するサービス「Qast Clone」を2026年秋に提供予定です。本記事では、開発の背景や仕組み、組織にもたらす価値を紹介します。

ベテランの判断基準を継承する「Qast Clone」開発の背景

一般的な生成AIは、大量の文章を学習した大規模言語モデル(LLM)を基盤としており、幅広い質問への回答や文章作成が可能です。LLMとは、大量の文章データを学習し、質問への回答や文章生成を行うAIの基盤技術です。一方で、企業ごとの業務ルールや、個人が経験を通じて身につけた判断基準まで、あらかじめ反映されているわけではありません。
業務マニュアルには作業手順や注意事項を記載できますが、「なぜこの方法を選ぶのか」「どの条件を優先して判断するのか」といった背景は残りにくいものです。経験を通じて身につけた、言葉にしにくい知識は「暗黙知」と呼ばれます。なかでも判断基準は、会議や日常のやり取り、資料への指摘などに断片的に現れるため体系的に整理しにくく、ベテラン社員に質問や確認が集中する要因にもなっています。

any株式会社は、AIナレッジプラットフォーム「Qast」を通じて8年間、日本企業のナレッジマネジメントに取り組んできました。
同社は支援を続けるなかで、現場で必要とされる暗黙知の多くは経験にもとづく判断基準であり、個別の会話や資料に断片的に現れるため整理しにくいこと、さらに本人が他者の成果物をレビューする場面で特に言語化されやすいことに気づいたとしています。
こうした課題と知見をもとに開発されたのが、企業や個人に固有の判断基準を継承する「Qast Clone」です。個人別・業務領域別に「ナレッジクローン」を構築し、ベテラン社員がどのような観点で内容を確認し、なぜその判断に至ったのかを、相談や資料レビューに活用できる形に整えます。
暗黙知を継承するには、完成した知識だけでなく、判断に至るまでの考え方を残す必要があります。Qast Cloneがその情報をどのように抽出し、実務で使える形にするのかが注目されます。
次のセクションではナレッジクローンをどのように作り、使いながら育てていくのか、3つのステップから仕組みを見ていきます。

ナレッジクローンを作る・使う・育てる3つのステップ

Qast Cloneにおけるナレッジクローンの構築から活用、改善までの流れは、3つのステップで進みます。

【ステップ1:ナレッジクローンを作る】
最初に、どの部署の誰を対象とし、どの業務領域のクローンを作るのかを、ヒアリング結果をもとに設計します。そのうえで、過去の社内会議の議事録や音声データ、業務で使用した資料などから、本人の判断基準を抽出します。
資料だけでは把握できない場合は本人へのインタビューを行い、判断の背景や重視している観点を補います。集めた情報は、AIに知識や判断基準を学ばせるための「教師データ」として、ナレッジクローンに反映されます。

ステップ2:ナレッジクローンを使う】
構築したナレッジクローンには、チャット形式で相談や壁打ちができます。また、資料をアップロードすると、学習した判断基準にもとづいてレビューを返します。修正点だけでなく、その判断に至った理由や確認の観点も提示されるため、利用者は指摘の背景にある考え方まで確認できます。

ステップ3:ナレッジクローンを育てる】
AIが生成したレビュー内容は、本人が評価・修正します。そのフィードバックを教師データへ反映し、利用を重ねることで、本人の判断基準を再現する精度を高めていきます。相談やレビューを繰り返しながら本人の修正を反映することで、ナレッジクローンを継続的に育てていく仕組みです。

Qast Cloneは、利用する立場ごとに異なる価値を提供します。若手社員は、マネージャーやベテランが不在でも相談でき、指摘の理由を学ぶことで、自律的な意思決定につなげられます。マネージャーは、自身の判断基準にもとづく一次レビューを任せることで、同じ指摘を繰り返す負担を減らせます。
ベテラン社員にとっては、自身の判断基準を整理して次の世代へ残せるほか、他のベテラン社員の判断基準を学べる点が価値です。経営側も、退職や異動による知識の喪失を防ぎ、個人に依存していた意思決定や品質基準を組織全体で再利用できます。
ナレッジクローンは、構築して終わりではなく、本人による確認や修正を重ねながら精度を高めていくことが重要です。AIだけに判断を任せるのではなく、人のフィードバックを反映しながら育てる仕組みが、実務で活用するうえでの鍵になるでしょう。

まとめ

いかがだったでしょうか?
Qast Cloneは、会議や資料、対象となるベテラン社員へのインタビューを通じて、その人が持つ判断基準をAIに反映するサービスです。手順だけでは残しにくかった判断の理由や観点を共有することで、若手の学習やマネージャーの指導、次世代への知識継承を支えます。提供開始後、日常業務を通じてナレッジクローンがどのように育ち、組織内で活用されるのかが注目されます。