2026.08.23 | テクノロジー

日本気象協会とソフトバンク、AI活用で食品廃棄量12.6%減などの成果

食品スーパーでは、天候や来店客数によって惣菜の売れ行きが変わる一方、適正な商品量の判断が従業員の経験や勘に頼る場面もあります。日本気象協会とソフトバンクは、バローホールディングスと中部フーズの協力のもと、気象データ・人流データ・AIを組み合わせ、食品ロス削減と店舗業務の効率化を両立できるか実証しました。20店舗での取り組みと成果を紹介します。

なぜ食品スーパーの惣菜売場にAIが必要だったのか

食品スーパーの惣菜売場では、弁当や寿司、惣菜など賞味期限の短い商品を多く扱っています。こうした商品は売れ残ると食品廃棄につながりやすい一方、製造量を抑えすぎると欠品が発生するため、必要な量をできるだけ正確に見極めることが重要です。
ただし、惣菜の需要は毎日一定ではありません。曜日による違いだけでなく、降雨や降雪といった天候、人の動きなどによって来店客数や商品の売れ行きも変化します。複数の要因を考慮しながら発注量や生産量を決める必要があるため、従業員の経験や勘に頼った運用では、店舗ごとに判断のばらつきが生じることが課題となっていました。
さらに、小売流通業では人手不足や人件費の上昇が継続的な課題となっています。

「スーパーマーケットバロー」の惣菜部門でも、店内調理による商品提供や売場づくりを進める一方で、付帯作業や管理業務が現場の負担となっていました。
食品ロスそのものも大きな社会課題です。農林水産省の令和6年度推計値では、日本の食品ロスは年間約461万トンに上り、食品製造業と小売業がその約3割を占めています。食品の生産や廃棄に伴って温室効果ガスが排出されることから、食品ロスの削減は環境負荷を抑えるうえでも重要です。
こうした背景から、日本気象協会とソフトバンクは、バローホールディングスと中部フーズの協力のもと、農林水産省の「令和6年度 食品ロス削減緊急対策モデル支援事業」の公募に採択され、AIを活用した実証に取り組みました。
惣菜部門では、廃棄を減らすだけでなく、欠品を防ぎながら現場負担も抑える必要があります。そのため、需要予測を単なる効率化ではなく、複数の課題を同時に調整する手段として捉えることが重要でしょう。

気象・人流・販売データから「作る量」と「値引くタイミング」を判断

実証実験は、2026年1月23日から3月12日まで「スーパーマーケットバロー」20店舗を対象に実施されました。活用したのは、降雨・降雪などの気象データ、人流統計データ、店舗の販売実績、来店客数データです。これらの情報を組み合わせ、商品の発注から販売中の値引きまで、AIが店舗の判断を支援しました。
1つ目が、AIによる自動発注です。商品ごとの需要を予測し、生産計画や発注量を自動で提示します。今回の実証では、気象データや人流統計データ、店舗の販売実績・来店客数データを統合し、AIによる需要予測を行いました。悪天候や曜日による需要の変化も事前に見込むことで、作り過ぎや欠品を抑えることを目指しました。

あわせて、店舗からの発注をより早い段階で行えるよう、発注リードタイムを長くする取り組みも行われました。必要量を早めに見通すことで、製造部門における原材料の調達や納品業務の生産性向上も図っています。
2つ目が、ダイナミックプライシングです。これは、需要や在庫状況などに応じて価格を調整する仕組みです。今回の実証では、当日の販売進捗や在庫状況、来店客数の予測をもとに、AIが商品ごとの値引きタイミングと値引き価格を推奨しました。売れ行きに応じて値引きを行うことで、過度な値引きと売れ残りの双方を抑える狙いがあります。
3つ目が、店舗運営AIエージェントです。生成AIを活用し、各店舗の販売実績や予測結果を踏まえて、推奨理由や予測の背景を説明する仕組みを構築しました。AIが結論だけを提示するのではなく、店舗担当者が判断の根拠を確認できるようにすることで、提案への理解や納得感を高めることを目的としています。
発注、生産計画、値引き、判断理由の説明までを一連の流れとして支援した結果、実際の店舗運営にどのような変化が生まれたのかが、今回の実証で検証されました。
発注と値引きを別々に最適化するのではなく、販売までの流れ全体をデータで支援している点に、この取り組みの実務的な特徴があります。AIを「判断を代替するもの」ではなく、「判断を補助するもの」として位置づけている点もポイントでしょう。

食品廃棄12.6%減、作業時間36.5%減――20店舗で見えた成果

実証の効果は、「スーパーマーケットバロー」20店舗と、同じ地域・同規模の比較店舗を対照するA/Bテストによって検証されました。
その結果、食品廃棄量は12.6%減少し、発注や生産計画にかかる作業時間は36.5%短縮されました。作業時間は1週間あたり約127分から約81分まで減っており、食品ロスを抑えるだけでなく、日々の計画業務にかかる時間も削減できたことが確認されています。
売上面でも変化が見られました。売上高は2.9%増加し、売上総利益は4.1%増加、欠品回数は3.2%減少しています。
日本気象協会など4者の発表によると、AIによる自動発注では、悪天候や曜日要因などによる需要変動を事前に見込むことで、惣菜などの作り過ぎや欠品回数の抑制につながりました。

また、ダイナミックプライシングでは、売れ行きに応じて値引きのタイミングや価格を調整することで、過度な値引きや売れ残りによる食品廃棄の削減が確認されています。
さらに、実証期間終了後も、食品廃棄量や発注・計画作業時間、売上高、売上総利益、欠品回数に対する効果が継続して維持されていることが確認されています。中部フーズでは今後、組織運営上の課題を解決したうえで、「スーパーマーケットバロー」の惣菜部門全店へのAI需要予測とダイナミックプライシングの展開を予定しており、ソフトバンクと日本気象協会も技術面から支援する方針です。
食品廃棄量だけでなく、欠品回数や作業時間、売上、利益にも改善が見られた点から、需要予測を活用した店舗運営が、食品ロス削減と業務効率化の両面に寄与する可能性を示した事例といえるでしょう。

まとめ

いかがだったでしょうか?
今回の実証では、気象・人流・販売データをAIで分析し、発注や値引きの判断を支援することで、食品廃棄量や作業時間の削減に加え、売上高・売上総利益の増加や欠品回数の減少が確認されました。今後は、「スーパーマーケットバロー」の惣菜部門全店への展開や、AI予測モデルの定期的な見直しが予定されています。
今回の事例からは、AIの導入そのものよりも、現場の判断に必要なデータを組み合わせ、日々の業務に取り入れられる形にすることが重要だと考えられます。食品ロス削減と店舗運営の効率化を両立するうえで、AIを現場の判断を支える仕組みとしてどう定着させていくかが、今後のポイントになりそうです。