FigmaのAI影響指数、デザインの仕事は3年でどう変わったのか?
AIがデザインの仕事に与える影響は、作業時間の短縮だけでは測れません。Figmaは2024年から毎年アンケートを行い、2026年にはAIが進行役を務める639件のインタビューも実施しました。回答の分析や社内ダッシュボードの構築にもAIを活用しています。変化を数値と声で捉える調査手法と、AIの役割を紹介します。
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AIが仕事に与える影響を測る「AI影響指数」
AIのような新しい技術が仕事に与える影響は、すべての領域に同じ形で現れるわけではありません。個人の生産性、チームの連携、企業の方針など、影響の現れ方は領域によって異なり、時間の経過とともに積み重なります。Figmaは変化の過程を継続的に捉えるため、2024年から毎年アンケートを実施し、その結果を基に「AI Impact Index(AI影響指数)」を構築しました。
AI影響指数は、AIが仕事に与えた成果そのものではなく、働く人が変化をどのように受け止めているかを数値で示す指標です。考え方の参考にしたのが、ミシガン大学の消費者信頼感指数で、同指数は経済の実態ではなく、人々が経済をどの程度楽観的または悲観的に捉えているかを示します。
Figmaも同様に、AIに何ができるかだけでなく、仕事がどう変わり、人々がどのように感じているかを捉えようとしました。
調査では、デザイナー、開発者、プロダクトマネージャーに対し、過去12カ月間にAIが個人の生産性や仕事の進め方に与えた影響、今後12カ月間にチームの協働方法に与えると考えられる影響などを質問しています。

参照:Figma Blog
回答は0から100までの尺度に置き換えられ、0は「影響なし」、100は「根本的な変化」を表します。50前後の場合は、仕事全体を変える段階には至っていないものの、AIが業務の一部になりつつある状態です。
測定項目は、所属組織の目標、生産性とワークフロー、他者との協働方法、担当するプロジェクトの種類、所属企業の製品とサービス、使用するツールの6つです。個人の生産性が変化しても、チームの連携には同じ程度の影響が現れていない場合があるため、仕事を複数の側面に分けて確認しています。Figmaは3年間にわたって同じ質問を使用しており、2026年の指数は100点満点中62点と、2024年の約2倍に達しました。継続して同じ尺度で変化を比較し、さらに数値の背景を探るため、インタビュー調査へと範囲を広げました。
AI導入後の変化を捉えるには、作業時間の短縮だけでなく、チームの連携や担当業務なども継続して見る視点が役立ちます。複数の側面を同じ尺度で追うことが、変化を見落とさないための手掛かりになるでしょう。
AIによる639件のインタビューとテーマ分析

数値の背景には、AIによって仕事がどう変わり、人々が何を感じたのかという個別の経験があります。Figmaは当事者の声を大規模に集めるため、AIを使ったインタビューツールを導入しました。
インタビューではAIが進行役を務め、参加者の回答に応じて確認の質問を行います。事前に用意された質問を順番に読み上げるだけではなく、会話の文脈を踏まえて質問を調整し、より詳しい回答を引き出す仕組みです。Figmaはこの方法で639件のインタビューを実施し、AIが仕事をどのように変えたのか、将来にどのような懸念があるのか、所属組織がどう対応しているのかなどを尋ねました。人間だけでは同じ時間内に実施できないほど多くのインタビューを集めたため、その分析にもAIを活用しています。
採用したのは「テーマ分析」と呼ばれる調査手法です。すべての記録を確認し、各発言に含まれる考えや論点に「コード」と呼ばれるラベルを付け、共通する内容を大きなテーマにまとめます。たとえば「AIによって試行や改善を重ねる速度は上がったが、品質への懸念が生じた」というテーマを選ぶと、言及した47人の参加者を確認し、実際の発言から元の記録までたどれるようにしました。
Figmaが独自の分析ツールを構築した背景には、既製ツールでは処理の過程が見えにくいという課題がありました。AIがデータをどう解釈したか分からなければ、分析結果が適切かを調査者が確認できません。独自ツールでは判断の根拠を追跡できるほか、数百件の記録すべてに同じ分析基準を適用できるため、疲労や読み進める順番によって判断が揺れる可能性を抑えられます。
ただし、分析をAIに任せきったわけではありません。使用する調査手法、分析の細かさ、相反するテーマの扱い方などは、調査者が明確に設定しました。AIは専門家の代わりではなく、人間が設計した方法を大量の記録に一貫して適用する役割を担っています。こうして得られた分析結果を複数の職種で共有するため、次に情報を一カ所へまとめる必要が生じました。
AIを調査に取り入れる価値は、大量のデータを短時間で処理できることだけではありません。分析基準を人間が設計し、判断根拠を後から確認できる状態を保つことが、結果を業務で活用するための前提になるでしょう。
調査結果を集約した社内ダッシュボード
テーマ分析によって、Figmaには数百に及ぶインタビューテーマと数万件のデータが蓄積されました。しかし、それらはノートブックやテキストファイルに保存されており、調査を専門としないメンバーが必要な情報を探すのは簡単ではありませんでした。調査結果をレポートとしてまとめるには、データを分析するだけでなく、関係者が同じ情報を参照できる環境も必要です。
Figmaの2026年版AIレポートには、リサーチャーだけでなく、ライター、マーケター、アナリストなど複数の職種が関わっています。担当者が数値を抽出したり、グラフを書き出したりするのを待たずに作業できるよう、Figmaはすべての調査データを集約した社内ダッシュボードを開発しました。

ダッシュボードには、3年分のアンケート結果とインタビューの分析結果がまとめられています。時系列で見た変化のほか、職種別・地域別の内訳、AI影響指数を構成する各項目の詳細を、条件を切り替えながら確認できるグラフで表示します。メンバーは必要な観点を自分で選び、数値の違いや変化を調べられるため、調査担当者へ毎回問い合わせる必要がありません。
開発では、分析したデータを単一のHTML文書にまとめ、FigmaのMCPサーバーを使って調整を重ねました。MCPサーバーとは、Figmaと外部のAIツールなどの間で情報を受け渡すための仕組みです。Figma上で画面の配置や操作方法を設計し、最初のコード構造を生成したあと、出力結果をFigmaで確認しながら見た目を整え、正常に動くまで修正しました。
完成したダッシュボードは、単なるデータの保管場所ではありません。メールやスライドに分散した情報から各自が別々の理解を持つのではなく、全員が同じ根拠を基に作業するための共有ツールです。調査結果を誰もが確認できる共通の情報源へ変えることで、異なる職種が一緒にデータを読み解き、レポート制作に活用できる仕組みを整えました。
調査結果は、専門部署だけが把握するのではなく、関係者が自ら確認できる形に整えることで、組織の判断に活かしやすくなります。データを複数の職種が使える共通言語に変えるところまでが、調査の成果といえるでしょう。
まとめ

いかがだったでしょうか?
Figmaは、AIがデザインの仕事に与える影響を指数で測るだけでなく、639件のインタビューから数値の背景にある声も捉えました。さらに、インタビューの分析や社内ダッシュボードの構築にもAIを活用し、膨大な情報を同じ基準で扱える仕組みを構築しています。
Figmaの取り組みは、AIの影響を測ると同時に、AIを使って調査の規模や活用範囲を広げた事例です。企業がAIを導入する際も、ツールの利用状況だけでなく、仕事や組織に生じた変化を継続的に捉え、改善につなげる仕組みまで考えることが、AI活用を評価する手掛かりになります。