2026.10.10 | テクノロジー

日立、複数のKPIを考慮して有力な候補を生成するLLM学習技術を開発

運行効率を高めながら、消費電力も抑える──社会インフラの運用では、両立が難しい複数の目標を考慮する必要があります。日立は、異なる目標のバランスを持つ有力な候補を生成するLLM学習技術を開発しました。一つの案に絞るのではなく、現場の条件に応じて比較・選択できる技術について、その仕組みと検証結果を詳しく紹介します。

異なるKPIバランスの候補を生む学習技術

社会インフラや産業分野では、脱炭素やエネルギー価格の変動、安定供給への要求、人手不足などを背景に、複数の目標を考慮した意思決定の重要性が高まっています。例えば、モビリティの運行計画では運行効率と消費電力、物流の配送計画では輸送時間と電力コストといった指標(KPI)のバランスが求められます。こうしたKPIは、一方を改善しようとすると、もう一方の改善が難しくなる場合があります。
日立が開発したのは、相反する複数のKPIを考慮し、異なるバランスを持つ有力な候補を生成するLLM学習技術です。LLMは大規模言語モデルの略で、文章の生成や要約に加え、条件に基づく案の作成なども行えるAIモデルです。
従来のLLM向け強化学習では、複数のKPIを一つの総合点にまとめて最適化することが多く、候補が特定のバランスに偏りやすいという課題がありました。強化学習とは、出力結果の評価をもとにモデルを学習させる方法です。

日立は、KPIの優先度を変更して最適化する際に再学習が必要となる点も、現場の状況に柔軟に対応しにくい要因として挙げています。
開発した技術では、前回までに生成した候補を踏まえて次の候補を生成し、候補群全体の性能と多様性にどれだけ貢献したかを評価しながら学習を進めます。一度に多くの候補を生成すると出力が長くなり、学習効率が低下するため、候補を順に生成・評価する仕組みを採用しました。単一の候補を生成・評価する既存の学習アルゴリズムを活かしながら、候補群全体の性能と多様性を高める設計です。
評価には、LLM向け強化学習手法の一つであるGRPOに、ハイパーボリューム寄与度を適用しています。ハイパーボリューム寄与度は、ある候補が候補群全体の性能と多様性をどれだけ高めたかを表す指標で、似た案を繰り返すのではなく、異なるKPIバランスを持つ有力な案を生み出す方向に学習を進めます。
日立によると、この仕組みにより、限られた評価回数でも、現場で比較検討しやすい複数の有力候補を得やすくなります。その効果を確かめるため、複数のKPIを評価できる回路生成タスクで検証を行いました。

回路生成で確認した効果と社会インフラへの展望

論理回路設計分野の回路生成タスクとは、求められる仕様や条件に基づいてAIが回路案を生成し、消費電力や処理速度、回路規模などの指標で評価する課題です。日立は、複数のKPIを客観的かつ自動的に評価できることから、開発した技術の有効性を確認するために用いました。
検証では、多様で有力な回路候補をどの程度広く得られたかを示す「網羅率」を評価指標とし、学習前のモデルと比較して最大13.3%の向上を確認しています。回路自体の処理速度や省電力性能が13.3%改善したという意味ではなく、得られた候補の網羅率が向上したことを示す数値です。
日立の発表によると、回路設計者が同じ仕様に対して「高速性を重視した回路」「省電力を重視した回路」「小型化を重視した回路」などを比較し、用途や製品要件に応じて選択できることが示されました。

設計者が何を重視するかに合わせて選べる、複数の回路案を得られる点が、意思決定支援につながります。
今後の応用先として、日立はモビリティ、物流、ワットビット連携、回路設計を挙げています。ワットビット連携とは、電力を表す「ワット」と、データ処理・通信を表す「ビット」を連携させる考え方で、電力の状況や通信条件に応じて、計算処理を行う場所や時間を最適化します。日立は、各分野への応用を検討するとともに、技術の有効性の検証を進める方針です。
また、今後は社会インフラ知能基盤モデル「Integrated World Infrastructure Model(IWIM)」を支える意思決定高度化技術として位置づけ、安定運用と省エネルギー・生産性向上の両立に貢献することを目指しています。今回の発表で示された検証結果は回路生成タスクにおけるもので、社会インフラへの応用は今後の検討対象です。なお、研究の一部は東京科学大学岡崎研究室の協力を得て実施されました。
回路設計の例が示すように、同じ仕様でも、用途や製品要件によって重視する性能は異なります。異なる特徴を持つ有力な候補を揃えることは、性能のバランスを比較し、条件に合った判断を行う助けになると考えられます。

まとめ

いかがだったでしょうか?
日立のLLM学習技術は、候補群全体の性能と多様性を評価しながら、異なるKPIバランスを持つ有力な案を生成します。回路生成で確認した成果をもとに、今後はモビリティや物流などへの応用が検討されています。
複数の目標の両立が求められる現場で、条件に応じた選択を支える技術として、今後の検証が注目されます。